富裕層インバウンドビジネスについてお話ししました:HanjoHanjo取材文
電通とイードの合弁会社の運営するHanjoHanjoの記事全文掲載いたします。商売繁盛、の、Hanjoです。いい名前だなあ。
インバウンドの中心が団体客から個人客へと移行する中で、新たなビジネスを模索する動きが出ている。このうち、注目される一つが、富裕層を対象にした観光・サービス業だ。観光庁も4月に発表した16年度の訪日プロモーション方針で、20年の訪日客4000万人達成に向けたターゲットとして富裕層を明記。成長著しいアジア諸国や従来から貴族階級が存在する欧米諸国など、世界各国の富裕層を、東京五輪を控えた日本に招き入れたい考えだ。こうした流れを受けて昨年から今年にかけて、富裕層向けのサービスを民間で立ち上がる動きもある。16年6月にはヒト・コミュニケーションズが、日本初をうたう多言語対応の高級リムジン送迎サービスを発表。コンシェルジュ同乗の上で、オーダーメイドの観光コースを案内するなど、その新たなアプローチが注目を集めた。記者を含めた富裕層とは程遠い生活を送る人々、特に地方の中小企業にとって、今後、新たに富裕層向けサービスに参入できる商機はあるのか。アジアを中心にここ4年、富裕層向け訪日旅行のコーディネートを展開。年間100件近くの富裕層による訪日旅行に携わってきた、ルート・アンド・パートナーズ代表の増渕達也さんに話を伺った。
■鈴鹿サーキットを見るため中部空港からヘリ移動
――増渕さんがこれまでお付き合いしてきた訪日富裕層というのは、主にどのような方々を指しているのでしょうか?
増渕 最も人数が多い層でも、資産は10億円以上。一番低い層でも、年収1億円前後の公務員や会社員の方々になります。日本人の感覚と違い過ぎて、ピンとこないですよね。でも、この20年、成長した国と成長しなかった国、その違いなんです。だからこそ、彼らの目にかなえば、いままでの数倍で物を売れる可能性があります。
――国内ではすでに富裕層向けの観光サービスが立ち上がりつつあります。これらの内容を踏まえた上で、日本でこの種のサービスは成功する可能性はあるのでしょうか?
増渕 リムジンサービスは、ホテルと周辺2マイル間の観光地とを往復するのには良いと思いますが、我々のクライアントがいま日本で求めているのはヘリです。ヘリを中心に、富裕層向けサービスの可能性は、地方でも今後広がると思います。
――ヘリでの移動となると、二次交通の提供ということでしょうか。中小企業にとっては、あまり手を出しにくい分野になりそうです。
増渕 皆さんヘリでの移動というと、テレビや映画のイメージからものすごい轟音と震動を想像されます。ですが、富裕層向けのヘリは内装設備も違うので、実際には飲食を取りながら旅を楽しまれる方も多いです。鈴鹿サーキットを観戦するために、愛知県の中部国際空港からヘリを飛ばしたクライアントもおられました。
ただ、例えば鈴鹿からセントレアまでの幹線道路沿いで、ハマグリを売る人達がいたとします。そのハマグリがいくら美味しくても、富裕層の方々は、一般道路を車で移動して食べに行こうって思わないですよ。時間をお金で買う方々ですから。それよりも、”ハマグリも食べられる”ヘリを彼らは選ぶ。スペシャルハマグリとして売れば、1個いくらで売れることでしょう。
――物がいくら良くても、日本国内の価格相場では値が付きにくかった各地の産品に、世界各地を旅する超富裕層が考える目利きの価格が上乗せされる可能性があるということですね。個人利用の増加による事故の可能性など、安全対策には十分に注意する必要がありそうですが、今後具体的なビジネスチャンスは広まっていくのでしょうか?
増渕 超富裕層向けのヘリに商機を嗅ぎ取った一部の企業が、ヘリを10機購入したといった話を耳にすることもあります。今後、各地でヘリ移動による関連サービスの動きが増えると見ていますが、問題なのはヘリポートは自治体や各地の主要企業が所有していることが多いことです。そうした場所がどれぐらい民間向けに解放するかも、鍵になるのではないでしょうか。
■日本に住みたいという訪日観光客が次に目指すもの
――いわゆる超富裕層の方が日本を訪れるにあたり、その目的とは何でしょうか。何かトレンドがあれば教えてください。
増渕 病院の検診サービス、日本での法人設立、そしてビジネスインターンの3つですね。弊社が顧客向けに提供している情報誌「HighNetWorth」最新号にもレポートがまとめられていますが、クライアントのニーズから見たこの2年の訪日目的のうち、最も多かったのは病院での検診です。
例えば、彼らは何か病気が見つかれば、その道の名医がいる国に行って高度な治療を受けたいと考えます。そのため、健康なうちから、病気の素をできるだけ早く見つけておきたいと定期的に日本に来ることを望みます。人間ドッグやがん検診、血液検査一つとっても、日本の検診技術のレベルは世界で最高水準だからです。ただ、検診の時点では健康であることから、家族を伴い、休暇を兼ねて日本を訪れる彼らが滞在中に費やす費用は、数百万円に及びます。地域に落とす金も少なくないですね。
――日本での法人設立についてはどうでしょう。外資系の日本参入というのは従来からあるニーズですが、何か変化があったのでしょうか?
増渕 最近増えているのが、中国人客による日本での法人設立のサポートです。元を円にしておきたいという本音や居住のしやすさに加え、法人設立に必要な役員に子どもを任命することで、家族ごと日本に居住できる点が、日本での法人設立における人気の背景となっています。
また、欧州の富裕層の間では、「子どもを日本の企業でビジネスインターンさせたい」という声もあります。子どもが日本でインターンとして働く間は親も休暇を取り、日本で暮らしたいという方々ですね。これらのケースは身元確認などを慎重に行う必要がありますが、それさえクリアすれば地方創生の大きな鍵になりそうです。
<Profile>
増淵達也(ますぶちたつや)さん
電通退社後、02年に富裕層向けメンバーシップマガジン「セブンシーズ」発行人に就任。その後も時計専門誌「クロノス」、30代男性誌「オーシャンズ」の新規創刊に携わる。06年7月に株式会社ルート・アンド・パートナーズ代表取締役社長に就任し、富裕層向けのエージェントおよびマーケティング業務を専門とする。東京とシンガポールで富裕層ビジネスを多角的に展開中。東京理科大学大学院非常勤講師、HighNetWorth Magazine編集長。