富裕層インバウンドと一線を画すリノベーションを施した湯河原
かつて湯河原は、名旅館が軒を連ね、最盛期には年間100万人以上が宿泊する人気の観光地だった。
明治から昭和にかけて、湯河原は高級温泉地と位置づけられ、日本中の文豪が長期滞在して執筆したり、晩年を過ごしたという名旅館も少なくない。
しかし、旅行形態の変化や景気の悪化とともに観光客の数は減少していった。それに伴い温泉街の街並みも寂れて、新幹線を利用すると東京から1時間弱という立地にありながら、若者や外国人客でにぎわう熱海と対照的に、集客の目玉もない湯河原には老朽化した宿泊施設も多く、寂れた雰囲気さえ漂いシャッターの閉まったお店も目につくようになった。
私が最後に湯河原を訪れたのは2012年だったが、少なくともその当時は震災直後ということもあり街に活気などは感じられず寂れた温泉街という印象を受けたというのが正直な感想だ。
しかしこの数年で、官民ファンドの地域経済活性化支援機構と地銀が合わせて10億円を出資したり、クラウドファンディングで資金を集めたりと地位全体で再興が活発になってきた。
古くからの温泉街は、外国人が抱く日本情緒のイメージにもぴったり重なる。目新しいものを作るのではなく、リノベーションをして再興するというのは湯河原を訪れる人が本質的に求めているものと合致しているのだ。「都会生活から離れ『オフ』になること」を求めているため、「わざわざ何かをしに行く」のではなく「何もしない」でリラックスし、日頃の疲れやストレスを洗い流し明日への活力を充電できる場所として存在する。それが富裕層インバウンドで湧く温泉街と一線を画す湯河原のあり方なのだ。